薬剤師のプログラミング学習日記

プログラミングやコンピュータに関する記事を書いていきます

薬の蓄積率について-投与間隔と半減期からわかること-

ネットで蓄積率を検索すると『投与間隔/消失半減期が3以下なら定常状態のある薬、4以上なら定常状態のない薬』などの記事が見つかります。今回はこの3や4という数字の意味について見ていきたいと思います。


蓄積率とは

ka>>keという条件下の1-コンパートメント経口投与モデル繰り返し投与において、単回投与時のCmaxと定常状態時のCmaxの比をRとすると次のように表すことができます。

\large{R= \frac{1}{1 - e^{-k_e \cdot τ}}}

このRを蓄積率といい、この値は「定常状態のC(max)は単回投与時のC(max)の何倍になるか」を知る目安となります。

蓄積率の式をグラフでみる

keではイメージがつかみにくいので、もう少し式を整理します。 ke=\frac{0.693}{t_{1/2}}なので、これを式のkeに代入すると、

\large{R= \frac{1}{1 - \rm exp(-\frac{0.693}{t_{1/2}} \cdot τ)} =  \frac{1}{1 - \rm exp(-log2 \cdot \frac{τ}{t_{1/2}})}}

見にくくなるのでeの表記をexpに変えています。この式は投与間隔 \large{τ}と半減期 t_{1/2}のみからなる関数となっています。つまり、このモデルにおいては、定常状態における最高血中濃度が単回投与時の何倍になるかは、投与間隔と半減期のみで決定される、ということを意味しています。

ではこの式を縦軸に蓄積率(R)、横軸に投与間隔/半減期(\frac{τ}{t_{1/2}})を取ってプロットしてみます。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
 
# 投与間隔/半減期と蓄積率の関係
 

# 蓄積率を返す
def ac_rate(x):
    return 1 / (1 - np.exp(-np.log(2) * x))
 

x = np.arange(0.1, 11, 0.1)
 
plt.plot(x, ac_rate(x), label=r"$R = 1/(1-exp(-log2 * τ/t_{1/2})) $")
plt.title("$τ/t_{1/2}$とRの関係")
# 軸ラベルを表示
plt.xlabel('投与間隔/半減期($τ/t_{1/2}$)')
plt.ylabel('蓄積率(R)')
# 軸の範囲と目盛り間隔を指定
plt.xlim(0, 10.5)
plt.xticks(np.arange(0, x[-1], 1))
plt.ylim(0, 8.5)
# 横軸が3, 4の位置に点線を入れる
plt.vlines(3, 0, ac_rate(3), color='red', linestyles='dashed')
plt.vlines(4, 0, ac_rate(4), color='red', linestyles='dashed')
# 矢印とテキストを入れる
plt.annotate('', xy=(2.2, 0.4), xytext=(2.9, 0.4), arrowprops=dict(fc='red', shrink=0.08, alpha=0.7))
plt.text(0.4, 0.3, '定常状態あり')
plt.annotate('', xy=(4.8, 0.4), xytext=(4.1, 0.4), arrowprops=dict(fc='red', shrink=0.08, alpha=0.7))
plt.text(4.9, 0.3, '定常状態なし')
# グリッドの表示
plt.grid(linestyle='dashed', linewidth=0.5)
# ラベルに応じた凡例を表示
plt.legend()
plt.show()

横軸\frac{τ}{t_{1/2}}の取る範囲ですが、投与間隔τは6~24、半減期は2~百数十時間程度として取りあえず0.1~11でプロットしてみました。もちろん、実際の薬の中にはこの範囲に入らないものもあると思います。

f:id:enokisaute:20200323185206p:plain
グラフを見てみると、横軸のだいたい3~4あたりを境として投与間隔/半減期が大きくなれば蓄積率Rはほぼ1となり、小さくなればRは1より大きくなっていくのが見て取れます。ちなみに、投与間隔/半減期が3と4のときのRを表示させてみると、次のような値になります。

print(ac_rate(3))   # 1.1428571428571428
print(ac_rate(4))   # 1.0666666666666667


具体的な例で見てみる

取り上げる薬がこのモデル(1-コンパートメント経口投与モデル)に従うという前提での話になりますが、いくつかの薬の\frac{τ}{t_{1/2}}とRの値をグラフ上にプロットしてみたいと思います。半減期については、一応インタビューフォームの値を参考にしていますが、厳密なものではありません。
次のコードを、上のコードのx = np.arange(0.1, 11, 0.1)とplt.plot()の間に貼り付けてください。

# key: 薬物名と用法, value: (投与間隔, 半減期)
med_dict = {'ロキソプロフェン 1日3回': (8, 1.2),
            'ゾニサミド       1日1回': (24, 60),
            'ゾニサミド       1日2回': (12, 60),
            'アムロジピン     1日1回': (24, 33)}
 
for name, val in med_dict.items():
    r = val[0] / val[1]
    R = ac_rate(r)
    plt.scatter(r, R)
    plt.text(r + 0.2, R + 0.1, name)
    print('{}: 投与間隔/半減期={:.2f}, R={:.2f}'.format(name, round(r, 2), round(R, 2)))

f:id:enokisaute:20200323200951p:plain

ロキソプロフェン 13回: 投与間隔/半減期=6.67, R=1.01
アムロジピン     11回: 投与間隔/半減期=0.69, R=2.64
ゾニサミド       11回: 投与間隔/半減期=0.40, R=4.13
ゾニサミド       12回: 投与間隔/半減期=0.20, R=7.73

ロキソプロフェンの\frac{τ}{t_{1/2}}は4より大きく、Rも1と蓄積性はありません。この投与間隔と半減期では繰り返し服用しても、血中濃度は単回服用時とほぼ同じということです。また、添付文書にも『1日3回5日間連続経口投与した場合、いずれも1回投与時と大きな差異はなく、蓄積性は認められていない。』と記載されています。
アムロジピンを見てみるとRは2.64で、インタビューフォームによると2.5mgを1日1回連続投与した場合は『投与後6~8日目に定常状態(初回投与時の約3倍)に達し、以後の蓄積は認められなかった。』とのこと。
ゾニサミドのように服用回数が『1〜3回に分割経口投与』となっているものもあります。その場合は同じ薬でも、当然服用回数によってRは変わってきます。


matplotlibで3Dプロットする

上では蓄積率Rを投与間隔/半減期の関数として平面にプロットしましたが、今度は投与間隔と半減期をそのまま1つの軸に取り、2変数関数として3次元空間にプロットしてみました。
f:id:enokisaute:20200328003123p:plain
このプログラムではグラフ中の赤い点をクリックすると座標(投与間隔、半減期、蓄積率)をグラフ下に表示することができます。
3Dプロットといっても曲面やワイヤーフレームによる描画などいろいろありますが、今回は散布図にしています。

import matplotlib.pyplot as plt
from mpl_toolkits.mplot3d import Axes3D
 
fig = plt.figure()
ax = fig.add_subplot(111, projection='3d')
 
tau = np.arange(6, 25, 1)               # 投与間隔
t_half = np.arange(1, 70, 3)            # 半減期
tau, t_half = np.meshgrid(tau, t_half)  # 格子点を作る
R = 1 / (1 - np.exp(-np.log(2) / t_half * tau))

ほぼお手本通りのコードですが、3Dプロット用のモジュールをインポートすること、
fig.add_subplot()にprojection = '3d'を設定すること、が平面プロットと違う点です。また、2次元格子点を作成するためにnp.meshgrid()を使用しています。
これによりtau, t_halfの同じインデックスの値がxy平面上のある一点の座標を示すことになります。
3Dプロットについては、こちらのサイトを参考にしました。
[Matplotlib] 3D (3次元) プロット

次はイベント処理(クリックで座標を表示する)です。関係のある部分だけ抜き出しています。

fig = plt.figure()
 
def on_pick(event):
    # 何らかの処理
 

fig.canvas.mpl_connect('pick_event', on_pick)

これについては、Event handling and picking — Matplotlib 3.2.1 documentationのサンプルコードを参考に書きました。
fig.canvas.mpl_connect('pick_event', on_pick)でイベント名とコールバック関数(on_pick)を紐づけておけば、”オブジェクトが選択された”、”マウスボタンが押された”、などのイベントを捕捉し、コールバック関数に書いておいた処理が実行される、ということのようです。
また、on_pick()内の座標の取得部分のコードについては、こちらのサイトを参考にしました。
python - matplotlibの3Dグラフ上の座標を得る - スタック・オーバーフロー


最後に、今回のコードを載せておきます。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
 
# 投与間隔/半減期と蓄積率の関係
 
# 蓄積率を返す
def ac_rate(x):
    return 1 / (1 - np.exp(-np.log(2) * x))
 
print('投与間隔/半減期=3のときのR: ', ac_rate(3))   # 1.1428571428571428
print('投与間隔/半減期=4のときのR: ', ac_rate(4))   # 1.0666666666666667
 
x = np.arange(0.1, 11, 0.1)
 
# key: 薬物名と用法, value: (投与間隔, 半減期)
med_dict = {'ロキソプロフェン 1日3回': (8, 1.2),
            'アムロジピン     1日1回': (24, 35),
            'ゾニサミド       1日1回': (24, 60),
            'ゾニサミド       1日2回': (12, 60)}
 
for name, val in med_dict.items():
    r = val[0] / val[1]
    R = ac_rate(r)
    plt.scatter(r, R)
    plt.text(r + 0.2, R + 0.1, name)
    print('{}: 投与間隔/半減期={:.2f}, R={:.2f}'.format(name, round(r, 2), round(R, 2)))
 
plt.plot(x, ac_rate(x), label="$R = 1/(1-exp(-log2 * τ/t_{1/2})) $")
plt.title("$τ/t_{1/2}$とRの関係")
# 軸ラベルを表示
plt.xlabel('投与間隔/半減期($τ/t_{1/2}$)')
plt.ylabel('蓄積率(R)')
# 軸の範囲と目盛り間隔を指定
plt.xlim(0, 10.5)
plt.xticks(np.arange(0, x[-1], 1))
plt.ylim(0, 8.5)
# 横軸が3の位置に点線, 左矢印とテキストを入れる
plt.vlines(3, 0, ac_rate(3), color='red', linestyles='dashed')
plt.annotate('', xy=(2.2, 0.4), xytext=(2.9, 0.4), arrowprops=dict(fc='red', shrink=0.08, alpha=0.7))
plt.text(0.4, 0.3, '定常状態あり')
# 横軸が4の位置に点線, 右矢印とテキストを入れる
plt.vlines(4, 0, ac_rate(4), color='red', linestyles='dashed')
plt.annotate('', xy=(4.8, 0.4), xytext=(4.1, 0.4), arrowprops=dict(fc='red', shrink=0.08, alpha=0.7))
plt.text(4.9, 0.3, '定常状態なし')
# グリッドの表示
plt.grid(linestyle='dashed', linewidth=0.5)
# ラベルに応じた凡例を表示
plt.legend()
plt.show()


こちらは3Dプロットのコードです。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
from mpl_toolkits.mplot3d import Axes3D
 
# 蓄積率の式を3Dプロットする
 
# グラフをクリックしたときに呼ばれる関数. 座標をfig上に表示する
def on_pick(event):
    ind = event.ind[0]
    x, y, z = event.artist._offsets3d
    label = '投与間隔(τ):{}, 半減期($t_{{1/2}}$):{}, 蓄積率(R):{}'.format(x[ind], y[ind], round(z[ind], 2))
    text.set_text(label)
    text.set_visible(True)
    fig.canvas.draw_idle()
 
fig = plt.figure()
fig.subplots_adjust(top=0.9, bottom=0.15)   # 余白の調整
ax = fig.add_subplot(111, projection='3d')  # (行,列,番号), projection='3d'でAxes3Dオブジェクトを作成
fig.suptitle(r"$R = \frac{1}{1-exp(-log2*\frac{τ}{t_{1/2}})} $", size=16)   # figにタイトルを入れる
 
tau = np.arange(6, 25, 1)       # 投与間隔
t_half = np.arange(1, 70, 3)    # 半減期
tau, t_half = np.meshgrid(tau, t_half)  # 格子点を作る
R = 1 / (1 - np.exp(-np.log(2) / t_half * tau))

# 軸ラベルを設定
ax.set_xlabel('τ', size=13)
ax.set_ylabel('$t_{1/2}$', size=13)
ax.set_zlabel('R',  size=13)
# 軸の表示範囲を設定
ax.set_ylim(0, 70)
ax.set_xlim(6, 24)
ax.set_zlim(0, 20)
# 3次元散布図を作成. picker:設定することでオブジェクトを選択できるようになる
ax.scatter(tau, t_half, R, c='red', picker=True)
# 底面に等高線を描画
ax.contour(tau, t_half, R, colors="blue", offset=-1)
# テキストをfigに設定
text = fig.text(0.15, 0.05, '', size=13)
fig.canvas.mpl_connect('pick_event', on_pick)
plt.show()

参考文献

・徹底解説 薬物動態の数学ー微積分と対数、非線形ー
定常状態がある薬物とない薬物 | 協和キリン医療関係者向け情報サイト 協和キリンメディカルサイト